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2001年 1月  人工知能学会誌 
社会へのアンテナ 第1回「知の源泉は人にあり」
人工知能学会誌Vol.16 No.1 2001/1


インタビュアは人工知能分野にチャンス・ディスカバリー概念を導入した研究者である筑波大学大澤助教授です。

株式会社マーケティング・エクセレンス
代表取締役社長 戸谷圭子
代表取締役   栗田康弘

大澤 今回は新コーナー「社会へのアンテナ」の第一回です。これは実世界の一つである実社会で活躍される方々から人工知能への率直な期待や意見を頂くという新コーナーです。 自由なコメントを頂いて、あとそれを消化し新たな方向を切り開くのは人工知能研究者の腕の見せどころで、ここではリラックスして話をすすめましょう。 緊張しているのは僕なんですけど。
 今回は、金融コンサルタントとして最先端で活躍されている戸谷圭子・マーケティングエクセレンス社長にお願いします。 金融界はデータマイニングが多用されている分野の代表だと思いますが、戸谷さんはその中でも独自の見識を元にマーケティング戦略を展開されていて、実世界とAIの接点としては興味深いお話が伺えるものと思います。
戸谷 金融は他産業に比べてデータは豊富です。 決済口座を持っている人は水道やガスなど公共料金の金額、日常生活費の出し入れ、給与まで把握しようと思えばできます。 誰のデータかまで分かる。しかし、それを過信しているのはまずい。
 日本の銀行は米国の後追いをしがちです。米国は莫大なIT投資をして顧客データを整備し、データベースマーケティングで大成功をしたと誤解し、これを真似るたのが日本にとって落とし穴でした。  データマイニングに頼る前に、もっと基本的な努力が必要です。 例えば、アンケートや観察などの調査、人の行動に関する調査を人手でやる努力を米国は何十年も続けたからITが活用できた。 ところがこの部分というのは当たり前すぎて、日本に来る段階では「ITを入れれば儲かる」という話だけになってしまうので失敗しているんです。 昨日まで融資審査をやってた人がマーケターになるんですから中身が落ちてしまう。
 まずIT投資だ、と数十億かけても、顧客データベースからは何も出てきません。 ターゲットモデリングといって、ある商品を買う人の特徴を決定的学習などの方法で見つけて、似た特徴を持つ人に売りつける方法が流行していますが、銀行の場合、お願いセールスに弱い人が選ばれるだけなので、顧客満足どころか不満足を作ってしまいます。
大澤 お願いに弱い人にどんどんお願いするだけですね。
戸谷 そう、顧客ニーズに基づくマーケティングへの逆行ですね。既存の商品を売りつけるだけになる。
大澤 米国ではそこはうまく行ってるのですか?
戸谷 彼らはデータの限界を知ってます。 だから、継続的に深い情報を得るための調査を続けるのです。 ウェルズ・ファーゴなど、いくつもの調査やテストマーケティングを常に並行して基本を着実にこなしていますね。
大澤 基本な作業というのは、人工知能の観点で言い換えると顧客の声の意味、つまり潜在要因と目の前の現象であるデータの関係を捉える作業をやっているのですね。 そこがデータマイニングと人工知能の差になったら人工知能も儲かる実学になるんだわなあ。
戸谷 データから自動的に顧客ニーズが全部分かると思っている人が、特に日本の金融関係者には多いです。
大澤 人工知能でも推論によってものごとの原因を把握しようとして来ましたが、そこは知識獲得のボトルネックで、顧客ニーズに相当する潜在原因までは記述できないから自動化はできないということくらいは大体人工知能研究者なら分かると思います。 うん、これが戸谷さんの分野で問題なんですね。その潜在原因をどこから取って来るかというところは、計算機と、人と、環境との相互作用という考え方に繋がってくると思います。
戸谷 その方向は興味ありますね。顧客に限らず、要は人の行動の動機が見たいわけです。 外からの刺激で人が動き、アウトプットをもたらすというS-O-R型の消費者行動の考え方では説明できない、刺激がなくても起きる能動的な動き。 原動力になる動機が大事です。
大澤 それは価値観つまり普遍的な人の動機が重要なのか、それとも時々刻々変化する動機か、どっちが大事だと思いますか、戸谷さんの分野では。 データマイニングを単純に使うと前者が強く出て来る気がしますが。
戸谷 両方ですね。 ライフステージごとに何のためにお金がいるかの理由が変わる点では後者ですが、その時にどれだけ情報探索する人なのかはその人のある程度普遍的な性質になってますから。
大澤 情報探索の深さというのも興味の深さ、つまりまた価値観に戻って来ますね。 深いな。 そこまで必要になるわけですか。
戸谷 そこまでできればいいですね。難しいでしょうけど。
大澤 少なくとも、人工知能では当分無理でしょう。それこそ、基本的な知識獲得のボトルネックに突き当たりますね。 どこかで人工知能への期待も諦めて、そこから先は人の仕事だということで割り切るんですね。 でも、敢えて伺いますけど、計算機が万能だったら何を期待しますか?
戸谷 やっぱり動機です。顧客が何故買いたいか、セールスマンが何故売りたいかというところが知りたい。
大澤 いろんなケースを全部与えて、組み合わせ論的に場合の候補をいっぱい作るのは機械はうまいですが、目の前の客がそのうちどのケースかをその人の行動データから選択するのが難しい。 それをするのが本当は知能の筈なんですけどね。
 しかももさっきのお話だと、顧客は喜んで購買行動をとるよりも説得されてそうしていて、もうケースは随分バイアスをかけられちゃってるんですよね。 このバイアスのかかっていない顧客をみないと仰っている顧客動機は真に分からないですし、顧客満足も得られないと。データの限界ですか。
戸谷 うん、そう思います。
大澤 量子論だと、観測結果には常にバイアスがかかってくる。科学的学者のハンソンは、見るということは知識などの前提から自由にできることではないと言ってます。 データがバイアスから逃げることなんてできないんじゃないかと思います。
戸谷 だからこそデータマイニングより先に、少しでもいろんな角度からのデータをアンケートなどで収集しなければならないんです。
大澤 じゃあもし、そういうバイアスのかかっていない観測データがあったらそれでいいんでしょうか。 あらゆる属性とあらゆるケースでの行動データがあれば。
戸谷 はい、それも違いますね。全ての属性を人が考慮して行動しているとは思えないです。 どこを考慮するかも、動機によると思います。その動機まで属性に含められればがいいと思いますが、そういう意味で仰ったのでしょうか。
大澤 はは、そんなこと考えてませんでした。最後に動機がやっぱり根本的な潜在因子として残ってしまうんですね。 これって、情報視覚化とかインタラクションの問題に持っていかないと、どうデータをとってももう無理じゃないかと想像します。
戸谷 オムツとビールを一緒に買う人が多いなんていうとき、この原因は人間が考える。 こういう関係を視覚化したら、それを見た人が自分でその原因ニーズを見つけるんですね。 興味あります。でも、それを解釈するには見る人の知識が重要になりますね。 残念ながら、金融業界にはそういうマーケターがなかなかいないですね。 元の話に戻っちゃうんです。
大澤 なるほど。結局のところ、人の知こそが源泉なわけですね。今日は大変勉強になりました。 有難うございました。
戸谷 有難うございました。
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