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女性行員の戦力化
〜女性を活躍させるには〜

潟}ーケティング・エクセレンス 同志社大学
戸谷 圭子


 女性行職員の戦力化が叫ばれる昨今の銀行業界、女性だけの商品開発プロジェクトなど が脚光を浴びていた段階から、男女格差の縮小や女性の働きやすさを考慮した体制整備の 段階へと進み始めた銀行も多い。総じて銀行業界での女性行職員はまだまだ活躍の種類も 場所も限定されている。さらに、女性に限らず若手行職員に共通してみられる離職率の上 昇やモチベーションの低下は大きな課題となっている。本稿では、銀行の女性行職員活用 のための取り組みを概観し、本部サイド・現場サイドでの課題を整理し、解決の方向性に ついて述べる。

女性活用の背景にあるもの


 女性の活躍が遅れているといわれる金融業界であるが、2009年度の『女性がはたら きやすい会社(日経WOMAN調査)』『はたらきやすい会社(日経新聞調査)』ランキングな どで、りそな銀行、埼玉りそな銀行、三菱UFJ信託銀行、新生銀行、広島銀行など複数の銀 行が100位以内に顔を出している。
 女性活用の動きが活発化した背景には、労働人口の減少という社会構造の問題だけでは なく、金融業界固有の事情がある。法令順守によってサービス残業や持ち帰り仕事ができ なくなり実質労働時間が確実に減っているのに対し、リスク性運用商品や保険商品など販 売にスキルや時間が必要な新商品が増加、行職員の負担は大きくなる一方である。男性渉 外係だけでは支店ノルマを消化しきれず、女性の活用が企業の生き残りに不可欠となって きたのである。

制度整備に対する取り組み


 女性活用といえば、以前は女性プロジェクトを立ち上げて女性発案の新商品・新サービ スを開発するというものが主流であった。しかし、そういった単発プロジェクトの多くは 短命に終わり、『女性を活用している銀行』であることのPR効果以上の成果はあまりなか った。
 先進行では、より実質的な成果を期して制度的な整備を始めている。総合職・一般職制 の廃止、出産・育児のための休暇・休職制度の充実、育児中の勤務時間の短縮、一度退職 した女性行職員の再雇用などを制度化している。同時に、男女比率や女性役席数などの数 値目標を掲げるポジティブ・アクションも増えている。正社員対象の施策のみでなく、窓 口テラーの過半を占めるパートや派遣社員などの正社員登用制度を取り入れた銀行もある。 制度面での銀行間格差は拡がりつつあるといえよう。しかし、これらの先進行の取り組み にも課題は多数ある。

行職員の認識とのギャップ


 ランキングに反し、銀行の現場からは決して楽観的でない声が聞こえてくる。なぜなら ランキングはあくまでも銀行の人事担当者に対する外形基準の調査結果をベースにしてい るからだ。調査項目には制度の有無や利用率などが含まれているので、一定の指標にはな ると考えられる。しかし、体制整備状況と、それらの施策の行職員からの評価や現場での 運用実態にはギャップがある。

表1 日経WOMAN『女性がはたらきやすい会社BEST100』調査内容

 それでは、行職員側の反応はというと、女性行職員自身にも現場の管理職にも戸惑いが ある。女性行職員に話を聞くと、そもそも『モノのように「活用」といわれることに抵抗 を感じる。』、『制度があっても現実には利用できる雰囲気ではない。』、『大変になる だけなので管理職になりたいとは思っていない。がんばれば支店長になれるようになった といわれてもうれしくない。』など、否定的な反応も少なくない。
 さらに、人的資源不足で最も困っている現場の管理職、支店長を始めとする男性役職者 は女性活用ブームに半信半疑である。本気で女性部下を育成しようとしても、結婚・育児 での退職も多く、転職も男性より簡単にしてしまう。自分たちと全く価値観の異なる女性 行職員(若手行職員も同じであるが)にどう対応してよいかわからないというストレスも 大きい。女性行職員の腰掛け意識そのものが真の問題だ、というのが本音だったりする。 ポジティブ・アクションによって起こる職場での摩擦も心配している。力量が備わってい ないのに役職に抜擢されたケースや、制度を利用する側に同僚への気遣いがない場合など、 昇進できない男性や制度の恩恵を受けない女性陣の反感を買う事例も多々耳にする。

本部の課題


 なぜ現場にこのようなギャップが生じるのだろうか。本部の企画・人事部の行職員はこ れまでの制度にぴったりはまってきたエリートだ。本部が用意する制度には、自分達と同 じように支店長を目指して滅私奉公的に働く銀行員像が理想型として見え隠れする。
 役席になっても残業手当がなくなって給料は下がってしまう。仕事のためにプライベー トを犠牲にする生き方をしたくない。顧客の意に沿わない商品を支店ノルマに追われてセ ールスするのも嫌だ。
 本部と顧客と部下の板挟みで疲れた中間管理職をみるにつけ、ああはなりたくないと思 っている女性行職員は多い。以前とは全く異なる価値観である。『忙しくて休みがとれな い。』と嬉しそうに話すカルチャーはそこにはない。
 本部行職員がそのことに気付かなければ制度は実態のない抜け殻となる。

現場の課題


 現場の運用には男性管理職のマネジメント能力の向上が課題であろう。そもそも女性は 補助職と決め付けているような上司もまだまだ多いし、そうではなくても上司が女性への 対応に慣れておらず、ある時は女なんだから、ある時は男性と同じなんだからと扱いが二 転三転するなど、配属になった支店の上司の当たり外れは激しい。これまで銀行では法人 渉外として成績がよい男性が昇進してきた。現在の支店長や役席は優秀なセールスマンで はあったことは確かだが、優秀なマネージャーとなる教育は受けていない。
 支店では業績にせよ人事にせよ、数値目標には盲目的に取り組む。退職を考えている女 性総合職がいると、辞められたら女性総合職の比率目標が達成できないからという理由で とりあえず休職を、と奨めるような事例もある。こういった盲目的な数値達成意識ではな く、その意味を考えて動く管理職を育成していかなければならない。
 経営陣に業績目標の抜本的改革を決断させるきっかけになったある地方銀行での調査の 結果がある。その銀行では、短期業績が高い支店ほど顧客ロイヤルティ(将来銀行に収益 をもたらす取引意図の総合指標)は低く、そういった店ほど男性総合職のモチベーション は高かった。反面、女性のモチベーションは短期業績の高低と無相関で、女性一般職のモ チベーションが高い支店ほど顧客ロイヤルティは高くなっていた。つまり、金融サービス には必須の長期視点を無視して短期収益目標達成に支店が注力した結果、長期的には顧客 離反が起こるような行動(例えば、不要な商品のお願いセールス)に男性総合職が走って いるのである。一方、女性一般職は賞与や昇進などで、短期的な支店業績の影響をほとん ど受けないため、日々の顧客とのよい関係に注力して仕事をしており、結果として顧客ロ イヤルティを獲得していたのである。



いま何が必要か


 上記の事例は男女どちらがよいというよりも、現在の業績目標の問題を浮き彫りにする ものである。サービス業のマネジメントでは内部マーケティング(インターナル・マーケ ティング)という考え方がある。本部の従業員は営業店で顧客と直接接する従業員を自分 たちの顧客(内部顧客)と考え、外部顧客に対するのと同じようにマーケティングを行う。


 すなわち、彼らのニーズを満たすサービスを開発し、それを伝え、提供するのである。 企画・人事などの本部行職員にとって現場行職員は顧客である。企画・人事は内部顧客の ニーズを正しく理解しなければ本当に効果のある施策は作れないはずである。しかし、本 部が実際に施策の対象になる女性行職員に直接意見を聞いて施策を決定することは少ない。
 金融自由化、法改正、金融危機、人材をとりまく環境、銀行業界のこれまでにない変化 に対して、われわれは誰も正解を持っているわけではない。新入行員の早期戦力化や、女 性活用に対する正解もまだない。まずは、自分たちの従業員に調査をしてこれまでとは異 なる従業員の価値観と企業に求めているものを理解しなければならない。ただし、それは 単に従業員に媚びるためではなく、顧客にとってよりよいサービスにつながり、顧客ロイ ヤルティを向上させるものでなくてはならない。そのためには上記の事例の銀行のように、 顧客と従業員、両者への調査を行う必要がある。古くからサービス業でいわれているとお り、『ES(従業員満足)なくしてCS(顧客満足)なし』なのである。 (了)
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